【本編5】課題指向型アプローチ(長下肢装具)を臨床から考える

 課題指向型アプローチとは?

 前回の【本編4】で片麻痺の治療の”質”とは、2つの方向性によって解釈が違うが、2つの方向性を理解するためにも、治療法の代表例である3つのアプローチ、つまり、課題指向型アプローチとボバースと認知運動療法を理解することがまず必要だということを書きました。

 【本編4】片麻痺治療の”質”とは?:3つのアプローチ

 今回はその1つ目の”課題指向型アプローチ”についてです。それでは、課題指向型アプローチと聞いて何を思い浮かべますか? ”脳卒中ガイドライン”で言っていたような…と引っかかるかもしれませんし、”課題指向型”を英語で言った”task-oriented”といった言葉を聞いたことがあるかもしれません。

 ”課題指向型” のアプローチとは、達成したい課題に似たアプローチを繰り返す事で、課題を達成していくことです。例えば、立ち上がりができなければ、立ち上がりを繰り返し行う。移乗動作ができなければ、移乗動作を繰り返し行うか、立ち上がりと立位での方向転換に分けて行う。

 これを聞いて、”あれ、それって当たり前のことではないか”と疑問に思う人も多いはずです。そうです、今のセラピストにとって当たり前のことなのです。ただ、当たり前だと思うことを細分化したり、より早期に行ったりすることによって、長下肢装具の早期立位・歩行CI療法といったところにつながっていっています。

 臨床における課題指向型アプローチの本質とは?

 では、なぜ当たり前のことが、アプローチとして成立するのか。それは、リハビリの治療の歴史が関係します。リハビリの治療は、ADL訓練 →神経筋促通手技(ボバースなど) →脳の知識を含めた治療法(現在)、と移り変わってきました。

 神経筋促通手技の時代に、あまりにもセラピスト主導の治療が強調されたために、ADL訓練が影を潜めてしまったのです。そのため、”神経筋促通手技の次の時代はADL訓練!”でも、強調することができたのです。

 臨床における課題指向型アプローチの本質とは、”その患者さんに必要なADL訓練を繰り返し行うこと。もしくは、必要な動作を分解して(=相分けして)訓練すること”です。

 非常に当たり前のことですが、臨床では非常に大切です。セラピストは、”寝かせてストレッチや筋力訓練して、立たせて歩かせて終わり”となりがちな治療内容を、もっと具体的に日常生活に必要な課題を設定して訓練しましょう、というメッセージがそこにはあります。

 自宅で物を持って運ぶ必要のある方は、物を持って運ぶ課題をする必要があるし、買い物に行かなければならない方は、バッグを持って長い距離を歩く課題をする必要があります。実際に課題を行ってみないと問題点は分からないことが多いです。

 課題指向型アプローチの”問題点”をどう考えるか?

 課題指向型アプローチのように、実際に必要となる課題を行ってみることは非常に大切なことです。しかし、臨床のセラピストであれば、この方法を続けることで確実に直面する問題があります。それは、片麻痺患者に必ず起こりうる、非麻痺側の努力性と麻痺側の痙性の問題です。

 この問題は、具体的な日常生活訓練を行えば行うほど改善してくるということはなく、逆に助長して悪くなってしまいます。動作自体はある程度早期に上手くなるけど、麻痺側が悪くなるという問題に葛藤するセラピストも多いはずです。

 できない課題を繰り返すので、当然それに適応するように、患者さんの身体は非麻痺側を努力的に使い、麻痺側は積極的に使わずに訓練を進めることが多いからです。長下肢装具での早期歩行も同様の問題を抱えています。

 課題指向型のアプローチの問題点は、”麻痺側への関わりの少なさ”です。この問題点をどう考えたらいいでしょうか?これは、やはり、”麻痺肢を良くするか?”を治療の質と捉えているボバースと認知運動療法の方法論を取り入れなければいけません。

 【本編4】片麻痺治療の”質”とは?:3つのアプローチ に、”質”の方向性の違いを書きました。

 次回の【本編6】ボバースに対する臨床的な考察をしたいと思います。

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