”認知運動療法”とは?
片麻痺の治療法を考える時、治療法の代表例である3つのアプローチ、つまり、課題指向型アプローチとボバースと認知運動療法の本質を理解することがまず必要だということから、前々回の課題指向型アプローチ、前回のボバースに続き、3つ目の認知運動療法について臨床的に考えていきます。
【本編5】課題指向型アプローチ(長下肢装具)を臨床から考える
では、”認知運動療法”と聞いて、どんな印象を持ちますか?前回のボバースは、非常にネガティブな印象を持つ人と非常にポジティブな印象を持つ人に二分されると言いましたが、認知運動療法の場合、凄く詳しい人と詳しくない一般的なセラピストに二分されると思います。
つまり、詳しい人は深く知っているけど、知らない人は全く知らない、という状況です。これが何を意味するかというと、一般的な病院では”馴染みきれていない”と言ってもいいかもしれません。
私個人としては、非常に救われたという思いがあります。まだまだ治療方法にも伸びしろがあり、セラピストが学ぶべきことが多くあることを知りました。また、全体で見た場合も、このアプローチがなければ、日本の片麻痺の臨床はかなり偏ったことになっていたことでしょう。
ただ、職場内での勉強会や地域の勉強会を立ち上げた経験から言うと、”なかなか浸透していない”のは間違いないです。日本のリハビリの中でも、いい意味で、かなり独特な路線で歩み続けています。
臨床における認知運動療法の”本質”とは?
ずばり、認知運動療法の本質は、”患者さんの内面に着目し、入力される情報をしっかり考えて治療する”ことです。片麻痺の患者さんに対して体性感覚を入力していくことは大切だと知ってはいても、このアプローチを知らなければ、そこまで細かく考えることはせずに治療していくことでしょう。
では、なぜ、入力される情報をしっかり考えるかというと、学習のプロセスを理論にしているからです。学習は、情報が脳に入力されて、運動として出力に至るプロセスの中で成立します。そのため、入力から出力までのプロセスをしっかり分析しながら治療します。
具体的な治療としては、患者さんに、”どこに注意させるか”をかなり細かく指示します。多少なりとも、患者さんに”麻痺側に体重乗せてください”とか、”麻痺側が力入らないようにしてください”とか、言っていると思いますが、それよりももっと細かく厳密です。
厳密に治療展開ができるということは、非常に理論がしっかりしている証拠です。理論が明確だと、理解することもでき、セラピストが悩みやすい脳卒中片麻痺の治療において、論理的に治療を考えることができるのです。
認知運動療法は、ざっくりとしていた脳卒中片麻痺の治療法を、細く分けて臨床で実践できるように落とし込み、患者さんの出力面だけでなく入力面も考えながら治療できるようにしました。
認知運動療法の”問題点”をどう考えるか?
では、認知運動療法の問題点は何でしょうか?。ここまで書いてきた通り、理論は明確で、治療の展開も論理的でわかりやすく、細かく考えて行うことができる。にも関わらず、一般的な臨床にうまく浸透させることができない最大の理由は何でしょうか?
それは、簡単な言葉で言えば、”難しすぎる”ということだと思います。理論がしっかりしすぎているため、理解はできても、治療の段階での難しさが、臨床の一般的なセラピストが行うことを阻む原因となります。
臨床の一般的なセラピストは、患者さんの治療だけでなく、他職種との情報交換や会議、家屋調査や色々な調整など、頭も身体もフル回転なので、難しいことを考えるスペースがなく、諦めてしまうのです。それは、認知運動療法が正しいと分かっていてもです。
あと、認知運動療法はスポンジ等の独自の道具を使用することも、普通の治療とは違う面を周囲スタッフや患者さんに感じさせてしまい、継続することを難しくします。
もう少し一般の臨床に近づけないと、まず浸透していかないでしょう。ボバースは、臨床に取り入れられたので批判の対象になったが、認知運動療法は批判の対象にさえならずに、独特路線で行くしかなくなってしまいます。
実際に、認知運動療法を学んだはいいものの、一般的な病院での治療としてはなじまず、今いる病院を辞めて、同じ仲間たちを探していくという人も多くいます。それは、勉強した人と勉強しないない人との間に壁が大きくできてしまうからです。
非常に有益なアプローチに関わらず、非常にもったいないと思います。一般的な病院でも、そこで行われている治療方法に一つのレイヤーとして追加できるようになることが、認知運動療法の課題です。私自身も非常に苦労したところです。
次回は、計3回に渡って書いてきた、課題指向型アプローチ、ボバース、認知運動療法、の3つのアプローチの本質についてまとめていきます。
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