前回の【本編6】にて脳卒中ガイドラインについて触れました。【本編5】の課題指向型アプローチの時も、補足として書いています。
【本編5】課題指向型アプローチ(長下肢装具)を臨床から考える
【本編5-2】課題指向型アプローチの補足:脳卒中ガイドライン
ボバースについての補足として、脳卒中ガイドラインの記載も書きたいと思います。
まず、脳卒中ガイドラインは、2004度版、2009年度版、2015年度版、そして2015年度版[追補2017年]と改訂・追補を重ねています。
ボバースについては、2009年度版にて
”ファシリテーション(神経筋促通手技)、〔Bobath法、neurodevelopmental exercise(Davis)、Proprioceptive neuromuscular facilitation(PNF)法、Brunnstrom法など〕は、行っても良いが、伝統的なリハビリテーションより有効であるという科学的な根拠はない(グレードC1)”
出典元:脳卒中ガイドライン2009(2-1運動障害・ADLに対するリハビリテーション)
と書いてあります。”科学的な根拠はない”と明記されています。この記述によって、もともとボバースに対して否定的に思っているセラピストは、この時期から”根拠のないアプローチ”と言うようになりました。
”グレードC1”の意味としては、
A :行うよう強く勧められる
B :行うよう勧められる
C1 :行うことを考慮しても良いが、十分な科学的根拠がない
C2 :科学的根拠がないので、勧められない
D :行わないよう勧められる
出典元:脳卒中治療ガイドライン2015
行うように勧められるのは、AとBのみで、CとDに対しては、勧められていません。
また、その後の改訂版の2015年度版では、上記の記載すらなくなってしまいました。このことをどう捉えるかはセラピストそれぞれの解釈ですが、ガイドラインの”推奨”の部分に書かれなくなったことは、ある程度の意味を持つと思います。そして、以下の文面に書き換わってしまったのです。
”下肢機能や日常生活動作(ADL)に関しては、課題を繰り返す課題反復訓練が勧められる(グレードB)”
出典元:脳卒中治療ガイドライン2015(2-1運動障害・ADLに対するリハビリテーション)
エビデンスについての脳卒中ガイドラインの中で、①ボバースの記載自体がなくなったこと、②課題指向型アプローチを勧めることに置き換わったこと、の2つの理由によって、ボバースは、”過去のアプローチ”で、これからは課題指向型アプローチだと、認識されるようになっていきました。これは、リハビリの業界では、非常にインパクトのある出来事でした。
ただ、本当にボバースは”過去のアプローチ”になってしまったのでしょうか?。臨床のセラピストは、前回の【本編6】で書いたように、ボバースの講習会で、実際の患者さんが治療によって良くなるデモンストレーションも見ています。学習の問題はあるとしても、実際に患者さんの変化するところは目の当たりにしています。
ボバースは、リハビリの臨床で一つの時代を築きました。確かにネガティブな部分もあったかもしれませんが、ポジティブな面も確実にありました。それを全否定せずに、良い部分は残して次の世代に伝えていくべきです。
次回の本編は、認知運動療法(現在:認知神経リハビリテーション)に対する臨床的な考察をします。
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