モチベーションは学習の大前提
前回、運動学習とは、”意識的に”行うものであり、その課題は”適切な難易度”を設定する必要があり、”回数を重ねていく”必要があると書きました。
【本編18】運動学習:意識的な学習と無意識的な学習(片麻痺治療の基本方針③)
ただ、適切な難易度の課題を意識的に行っていくために、必要な大前提があります。それは、”患者さん自身の、学習に対するモチベーション”です。当たり前のようでとても重要です。
何のためにこの課題を行わなければならないのか、何を目標にこの課題を行わなければならないのか、が明確でない限り、意識的に行うことが難しくなります。
入院している多くの患者さんは、”早く良くなって家に帰る”とか、”早く歩けるようになる”とか、漠然としたモチベーションを持っていることが多いです。ただ、片麻痺の患者さんが、麻痺に対してリハビリをする場合は、より具体的なモチベーションが必要になります。
片麻痺の患者さんのモチベーション
脳卒中で生じた麻痺は、徐々に回復してはいきますが、完全に麻痺を治す治療は存在していません。ですが、リハビリ開始当初は、患者さんは麻痺の回復を期待しています。そして、時間が経つにつれて、”片麻痺が元通りに戻るものではない”と感じるようになります。
もしくは、自分で気づかなくても、医師から説明があって、麻痺という現実に直面するということも起こるでしょう。
その時に、麻痺に対するリハビリをしていく際のモチベーションが必要になってきます。動作のリハビリというよりも、麻痺のリハビリの課題を行うためのモチベーションです。
では、上下肢の麻痺が、前の状態と同じように(=非麻痺側と同じように)、戻らないと患者さんが思った時に、どのようなモチベーションを持って、リハビリに臨んでもらったらいいでしょうか。
現実的なイメージがモチベーションになる
まず、第1に、”過去の状態との比較ではなく、現在の状態での比較に変える”必要があります。つまり、麻痺側の変化に敏感になってもらうということです。目標として、”元通りになる”という目標を持つことは、絶対的に悪いことではないかもしれませんが、現実的には、正常が比較対象だと、無力感が生じやすくなります。
麻痺は少しづつは学習して良くなりますが、グングン良くなるものではありません。昨日より今日の状態、今日より明日の状態のように、近いところで比較していく必要があります。
そして、第2に、”現実的な目標を立てる”ということです。まず病棟で、できることを少しづつ増やしていく。重い麻痺の方であれば、坐位で手を大腿部に置いておくとか、食事時にテーブルに置いておくとか。軽い麻痺の方であれば、麻痺手で茶碗を持ってみるとか、スプーンを使ってみるとか、です。
片麻痺の患者さん自身のモチベーションにする場合は、”麻痺になってからどの位良くなったか、現実的にできることは何かを目標にする”、ということがとても大切です。麻痺に対する現実的なイメージ、具体的なイメージです。
そして、そのためには、セラピストが患者さんに対して、”現実的で、具体的なアドバイス”ができる必要もあります。
まとめ
学習には、適切な難易度の課題を回数こなすことが必要ですが、そのためには、”訓練に対するモチベーション”が前提として必要です。”麻痺の変化に敏感になり、現実的な目標を持つこと”が、片麻痺の患者さんのモチベーションに繋がります。
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