運動機能、感覚機能、高次脳機能の3つの評価を組み合わせる
前回の【本編22】では、”評価は3つに分けて考える”と書きました。運動機能、感覚機能、高次脳機能の3つです。
今回は、3つの機能を具体的に考え、実際の患者さんをイメージしていきます。例えば、次の3症例からどのような患者さんをイメージするでしょうか?
①運動機能:良好、感覚機能:重度↓、高次脳機能:良好
②運動機能:重度↓、感覚機能:中等度↓、高次脳機能:良好
③運動機能:中等度↓、感覚機能:重度↓、高次脳機能:中等度↓
上記の3例から、その患者さんが、”どのように回復していきそうか”、”どこで問題が出そうか”、”退院の時にどの位まで能力が伸びそうか”、などといったところを、3つの機能を組み合わせながら考えてみることで、推測してみましょう。
3つの機能の組み合わせから具体的にイメージしてみる
①運動機能:良好、感覚機能:重度↓、高次脳機能:良好
運動麻痺がBr.stagaeⅥと高く、感覚は重度鈍麻、高次脳機能障害は問題ない方、をイメージしてみてください。介入当初は、”感覚だけすごく悪いので、分離運動は良好だけど運動が拙劣になり、動作はできなくはないけど失敗することもある”ような患者さんです。
運動機能として随意性は高いし、高次脳機能障害も良好なので、運動の学習が可能ではあるが、感覚が悪いことで、学習には時間がかかるかもしれない。
リハビリする中での予後予測としては良好で、下肢であれば歩けるようになるかもしれない、上肢であれば使えるようになるかもしれない、と推測することができます。
②運動機能:重度↓、感覚機能:中等度↓、高次脳機能:良好
運動麻痺がBr.stageⅡ~Ⅲ位と低く、感覚も中等度低下あるが、高次脳機能障害は問題ない方、をイメージしてみてください。介入当初は、”運動機能が低いので、まだ日常生活動作は介助が必要”な患者さんです。
運動機能が悪いと能力の予後も悪いけども、運動の学習という点では感覚と高次脳機能が左右します。感覚は中等度鈍麻であっても、高次脳機能障害がないので学習は可能と考えられます。運動機能は装具を作って補った上で、感覚も悪い中で、どこまで学習が可能かを考えながら治療していくことになります。
リハビリする中での予後予測としては、非麻痺側の代償を使ってADL自立、装具(SHB)使用しての歩行が自立するか、見守りが必要か、といったところではないでしょうか。
③運動機能:中等度↓、感覚機能:重度↓、高次脳機能:中等度↓
運動機能はstageⅣくらいで比較的残存していて、感覚重度鈍麻で、高次脳機能障害のある方、をイメージしてみてください。介入当初は、”運動機能はそこまで悪くないけども、感覚の低さや高次脳機能障害によって動作の安定性が低く、介助が必要”な患者さんです。
感覚が悪く、高次脳機能障害もあって運動の学習が難しいと考えると、運動機能はある程度残存しているけども、総合的な予後予測としては、あまり良くないかもしれない。stageⅣの麻痺側と、非麻痺側での動作の学習がどの位できるかどうか。
リハビリする中での予後予測としては、stageⅣ位あれば、ある程度の基本的な動作は可能になるが、難しい動作はできるかどうか。高次脳機能障害もあるので、見守り~軽介助が必要になるかもしれない、と推測できます。
シンプルなモデルに落とし込んで考える
脳卒中片麻痺の症状は多様です。もちろん、運動機能、感覚機能、高次脳機能は、もっと細かく評価できます。また、予後予測の面では、元々の患者さんの動作レベルや認知機能レベルも関係してきます。
しかし、このように3つの評価にシンプルに分け、総合的にはどうかを常に考えながら、リハビリ治療を進めることは非常に大切です。”実際の治療の内容”にもですし、”退院までの治療計画”にもです。
このような”シンプルなモデル”に落とし込むことで、患者さんにとっての適切な課題に難易度を調整したり、今後の総合的な予後予測を考えながら進めることができます。
多くある評価を、シンプルに運動機能、感覚機能、高次脳機能の3つに分け、その3つを組み合わせて考えながら、治療や予後予測を総合的に考える。つまり、シンプルなモデルに落とし込んでまとめて考える習慣をつけることが大切です。
まとめ
今回は、運動機能、感覚機能、高次脳機能の3つの評価に分けて、それらを組み合わせて考えることで、具体的に患者さんをイメージして予後予測をしてみました。
脳卒中片麻痺の症状は多様ですが、実際の治療や予後予測を考える上でも、”シンプルなモデルに落とし込んでまとめて考える習慣をつける”ことが大切です。
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