【本編13】認知運動療法と課題指向型アプローチ(長下肢装具)を両立させるには?

 前々回は、課題指向型アプローチ(長下肢装具)とボバースを比較し、前回はボバースと認知運動療法を比較しました。今回は、認知運動療法と課題指向型アプローチ(長下肢装具)を比較していきます。

 【本編11】課題指向型アプローチ(長下肢装具)とボバースを両立させるには?

 【本編12】ボバースと認知運動療法を両立させるには?

 認知運動療法と課題指向型(長下肢装具)の”相性”は?

 臨床的に、認知運動療法と課題指向型アプローチ(長下肢装具)の”相性”はどうでしょうか?積極的に早期の立位・歩行をさせる”課題指向型アプローチ(長下肢装具)”と、丁寧に患者さん自身の身体の認識をさせながら細かく治療する”認知運動療法”を、臨床的にどう考えればいいでしょうか?

 結論から言うと、この2つのアプローチは、かなり相性が悪いです。それはなぜか?最も大きな理由は、早期から難易度の高い動作をすることに対する考え方の違いです。

 課題指向型アプローチは、脳卒中ガイドラインを根拠に早期の立位・歩行を推奨します。一方で、認知運動療法は、脳卒中の病態、具体的には機能解離の理論から、早期の立位・歩行を否定します。

 若いセラピストは、2つのアプローチを提示されれば、間違いなく悩んでしまうでしょう。どちらにも触れないようにするか、どちらかに振り切れるか、になってしまう。そうならないために、2つの視点を紐解いていきます。

 2つのアプローチは、見ている視点が全く違うのです。課題指向型アプローチは、廃用予防を優先度の高い目的とし、認知運動療法は、麻痺の最大限の回復を目的としているのです。

 ”廃用予防と麻痺の回復”、この2つに対する考えは、セラピストでも真っ二つに意見が分かれます。私の開いた勉強会でも、ほぼ半数に分かれました。廃用予防を追求すれば麻痺の回復がおろそかになり、麻痺の回復を追求すれば廃用予防がおろそかになる、と臨床のセラピストは考えています。

 この交わらそうな2つのアプローチをどう考えるか?ただ、2つとも、両極端だから明確になることもあります。

 認知運動療法と課題指向型アプローチ(長下肢装具)の”共通点と違う点”は

 では、少し具体的に、2つのアプローチにおける共通点と違う点を考えていきます。

 ◯共通点:治療に対して、患者さんの積極的な参加を必要とする。つまり、学習に対する考え方が共通する。

    

 ◯違う点:

 ・痙性に対して、課題指向型アプローチは”しょうがないもの”として捉え、認知運動療法は”治療対象”として捉える。

 ・麻痺肢に対して、課題指向型アプローチは動作の中で使っていくこと”として捉え、認知運動療法は、臥位の機能訓練から始めるべきと捉える。

 ・動作訓練に対して、課題指向型アプローチは積極的に行うものとして捉え、認知運動療法は機能が良くなれば自然に良くなるものとして捉える。

 ・理論は、課題指向型アプローチはバイオメカニクスで、認知運動療法はバイオメカニクス、神経科学、脳科学、認知科学等の全てを網羅している。

   【本編5】課題指向型アプローチ(長下肢装具)を臨床から考える

   【本編6】ボバースを臨床から考える

   【本編7】認知運動療法(現:認知神経リハビリテーション)を臨床から考える

 両立させるために何を議論すればいいか?

 では、認知運動療法と課題指向型アプローチ(長下肢装具)の両立をさせるには、どうすればいいでしょうか?目的が全く一致していない2つはどのように議論すればいいでしょうか?

 この2つの議論は、まともにやろうとすると、全く噛み合わずに平行線をたどって終了する可能性が非常に高い。私は次の方法を提案します。

 ・課題指向型アプローチ(長下肢装具)の視点の人は、一度、認知運動療法の視点で考えて、どこを取り入れられるか考えてみる。具体的には、動作訓練の中で、どこに患者さんに注意を向けさせたらいいか、など。

 ・認知運動療法の視点の人は、一度、課題指向型アプローチ(長下肢装具)の視点で考えて、どこを取り入れられるかを考えてみる。具体的には、どの動作の時に、認知課題を行えばいいのか、など。

 お互いが違う視点で考えられた後に、議論をしてみて、どこなら歩み寄れる部分があったかを考えてみるといいでしょう。臨床的には、合わない2つのアプローチですが、大きな括りで俯瞰してみることができるようになります。

 次回の【本編】は3つのアプローチについてまとめ、その後は、具体的にどのように治療していくかについて書いていきたいと思います。

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