片麻痺に対する筋力訓練には2つの考え方がある
前回の【本編21】では、麻痺肢の運動の順番として、”他動運動→自動介助運動→自動運動”の順で行っていくという話をしました。
【本編21】セラピストは、麻痺肢をどのように触れ、どのように動かすか?
ただ、臨床のセラピストは、一つの疑問が浮かぶはずです。”筋力訓練をどう考えたらいいのだろうか”、ということです。”麻痺と筋力訓練の関係”は、臨床ではよく議論になることなのではないでしょうか。
麻痺側に対する筋力訓練に関しては、2つの考え方があります。1つ目は、”麻痺の問題は質的な問題のため、筋力訓練は必要ない。痙性を高める原因になる”という考え方で、2つ目は、”能力に必要な筋出力は筋力訓練として行うべきだ。痙縮(=痙性)は、歩行の阻害因子にはならない。”という考え方です。
1つ目は、麻痺を質的に良くしていく中で能力を改善させていくという”ボトムアップ的な考え方”であり、認知運動療法やボバースで言われることです。一方、2つ目は、能力の改善を最優先させていくという”トップダウン的な考え方”であり、課題指向型アプローチで言われることです。
ただ、2つの考え方には、前提としての大きな違いがあります。”痙性をどう捉えるか”です。筋力訓練を否定する考え方は、痙性を正しい筋出力として捉えていません。一方で、筋力訓練を肯定する考え方は、痙性も筋出力の一つの方法として捉え、利用していく立場をとります。
【本編17の補足②】痙性とは何か?錐体路障害で起こることは何か?
2つの考え方には、筋力訓練の前提としての”麻痺の治療に対する考え方”に違いがあります。
麻痺側の筋力向上が必要な場面はある:運動の質と筋出力の量
では、実際の臨床では、どのように考えるべきでしょうか。実際は、抵抗運動の筋力訓練をすると痙性が上がってしまう時と、筋出力を向上させないと解決できない時の、両方の場面があるのではないでしょうか。
筋出力を向上させないと解決できない場合の例として、既往で麻痺がある方の麻痺側の股関節頸部骨折の患者さんがわかりやすいと思います。
既往で麻痺がある方の場合、麻痺肢のコントロールはある程度できるようになっているので、痙性のコントロールよりもむしろ、骨折によって生じた筋力低下に対して筋力訓練をしていく必要がでてきます。
特に歩行時に求められる、大殿筋や中殿筋・大腿四頭筋といった筋力訓練は必要になってきます。麻痺肢の筋力訓練は、課題指向的なものでなければならないというエビデンスはあるものの、実際の場面で必要な筋出力が不足していると、その場面では必ず代償的な動きになります。
つまり、麻痺側は筋力訓練をしてはいけない、抵抗運動をしてはいけない、ということではないです。必要な場面で求められる筋力は練習しておく必要があります。
麻痺側の整形疾患を例に挙げましたが、片麻痺の患者さんの治療に関しても、筋出力を上げる目的で行う必要がある場合もあります。
それは、つまり、麻痺肢の、運動の”質”と筋出力の”量”、で分けて考える必要があります。痙性のコントロールや随意性の向上を運動の”質”であるならば、筋出力の向上は”量”です。
痙性をコントロールできていない状態での麻痺肢に対して筋出力を向上させることは、運動の質が低い状態のまま筋出力を上げることになります。一方で、痙性をある程度コントロールし、随意性を高めた状態で筋出力を上げることは、運動の質を上げてから筋出力を上げることになります。
片麻痺の訓練としては、”運動の質”を向上させてから、”筋出力の量”を向上させていく流れが、理想的な流れになります。
抵抗運動を難易度の段階として考える
では、実際の治療場面ではどのようにすればいいでしょうか。それは、前回の【本編21】の”他動運動→自動介助運動→自動運動”の流れの延長で考えます。
【本編21】セラピストは、麻痺肢をどのように触れ、どのように動かすか?
つまり、”他動運動→自動介助運動→自動運動→抵抗運動”の段階で考えます。
この意味としては、痙性をある程度コントロールできるようになった後に、自動運動→抵抗運動に進むということです。”筋出力の強弱のバリエーションを増やす”といってもいいかもしれません。自動運動は、あくまで自分の身体の重さをコントロールする力で、抵抗運動は、外部環境に抵抗する力です。
麻痺側の抵抗運動をする場合、ある程度痙性をコントロールできる状態になっていれば、痙性を出さずに抵抗運動をすることは可能です。
ただ、持ち方は、前回と同様では難しく、抵抗する手が必要になります。①運動の動きを教える手と、②抵抗をする手の、”2つの手”をうまく使いながら運動しないといけません。相反する動きを2つの手で行います。
ポイントとしては、”2つの手で、患者さんに動きを教えながら抵抗する”ことです。
まとめ
麻痺側の筋力訓練は、”他動運動→自動介助運動→自動運動→抵抗運動”の流れの中で行います。能力時に必要な筋出力の訓練を、機能訓練として行うということです。
ただ、麻痺には痙性の問題があるので、痙性をある程度コントロールできるようになった後に筋力訓練に進む必要があり、”開始する時期”を考慮する必要があります。
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