【本編21】セラピストは、片麻痺をどのように触れ、どのように動かすか?

 前回の【本編20】では、①痙性のコントロールと随意性の向上、と②麻痺側の機能に応じた姿勢制御の向上、の2つが、具体的な臨床での片麻痺の治療の目的、と書きました。

 【本編20】片麻痺リハビリの治療の”質”とは?:実際の臨床で何を目的にリハビリしていくか?

 では、今回は、その目的のために、”どのように治療していくか”、つまり、”どのように麻痺肢を触れ、どのように動かしていくか”、について具体的に書いていきます。

 

 麻痺肢をどのように触れ、どのように持つか

 ”どのように触れるか”については、”どのように触れてはいけないか”から説明した方が理解しやすいです。まず、錐体路障害の病態は、”麻痺と痙性”ですので、痙性を出現させないように触れる・持つことが大切です。

 【本編17の補足②】痙性とは何か?錐体路障害で起こることは何か?

 痙性を出現させないようにするには、つまり、”麻痺肢の筋肉を伸張しないようにする”ということです。麻痺肢の筋肉に対する、過度な、もしくは、急な伸張は、痙性の一つである”伸張反射”を起こします

 なので、麻痺肢に触れて持つ際は、筋肉を伸張しないように注意しながら、セラピストが”麻痺肢の全体の重みを持つような感じ”で持つことが必要です。全体の重みを持つことができている状態は、一部の関節に負担がかかる状態ではないということです。

 具体的には、末梢部と中間関節部付近を持って、バランスよく持つということです。下肢であれば踵と膝部、上肢であれば手掌と肘部を持つということです。

 そして、ただ麻痺肢にうまく触れる・持つだけではなく、その後に麻痺肢を動かしていかなければならないので、その持ち方で”各関節を他動的にスムーズに動かせる状態かどうか”ということも注意しておく必要があります。

 

 麻痺肢をどのように動かすか(他動的)

 次は、筋肉を伸張しないような状態で持った麻痺肢を、どのように動かしていくかということについてです。ここでは、まず、患者さんにとっての”課題の難易度”を考慮する必要があります。

 【本編18の補足②】片麻痺の運動学習のための難易度設定:具体例

 患者さんにとって、麻痺した手足をすぐに自分で動かす(=自動運動)ことは難しく、痙性の一部である”共同運動”や”代償的な運動”での動かし方になってしまいます。

 運動の難易度としては、”他動運動→自動介助運動→自動運動”の段階で難しくなるため、まずは、”他動的に動かす”ことから始めます。

 セラピストとしては、筋肉を伸張しないように痙性が出ないように、他動的に動かすことで、患者さんに”痙性のコントロール”を促します。つまり、”他動運動”の中で”筋肉の伸張に対する抑制のコントロール”を促すということです。

 患者さんには何を行ってもらうかというと、”動かされる感覚を感じ取ってもらう”必要があります。基本的には、患者さんには他動的に動かされることに対して”力を抜いて”合わせてもらいます。筋肉が伸張されていく動きに対して、痙性が出現しないように動かされることを学習してもらいます。

 ここでの目的は、随意性の向上よりも痙性のコントロールの学習が中心になります。

 

 麻痺肢をどのように動かしてもらうか(自動的)

 次は、ある程度動かされる感覚・動かす感覚が分かるようになってきたら、患者さんに自分で動かしてもらう必要があります。ここでは、運動の目的が、”痙性の抑制から随意性の向上”に移ってきます。

 基本的には、患者さんに自分で動かしてもらいますが、最初からうまくは動かせないので、セラピストが”軽介助”で誘導しながら動かしてもらいます他動運動の時に学習した”動かされる感覚”を、自分で動かす中で”動かす感覚”に生かしてもらうということです。

 また、痙性の一つである”共同運動”を出さないように、患者さんには、”無理な筋出力は求めない”ことも大切です。

 このように、運動は、他動運動から自動運動の中で、”感覚のみ →感覚+運動 →運動”といったように、段階的に学習させていく必要があります。

 

 まとめ

 錐体路障害の病態は、”痙性出現と随意性低下”のため、それに対応した触れ方や動かす訓練が必要になります。”痙性をコントロールすることと随意性向上”の学習です。

 課題の難易度としては、自動運動よりも他動運動のほうが低いため、”他動運動の中で痙性をコントロールする学習”から開始します。そして、徐々に動かされることと動かすことの感覚がわかってきたら、”自動運動での随意性向上の学習”に移っていきます。

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