【本編18の補足②】片麻痺の運動学習のための難易度設定:具体例

 課題は、”易しいから難しいへ”

 【本編18】の運動学習において、”学習するためには、適切な難易度を段階的に進めていく”必要があると書きました。

 【本編18】運動学習:意識的な学習と無意識的な学習(片麻痺治療の基本方針③)

 患者さんが行う課題の難易度は、”易しいから難しいへ”が基本です。では、どのように、易しい課題から難しい課題へ変えていけばいいでしょうか?

 代償運動が生じないようにする

 難易度の設定で初めに思いつくのは、”動作の難易度”だと思います。臥位から座位へ、座位から立位へ、立位から歩行へ、といったように動作における難易度です。これも、もちろん正しい難易度の設定だと思います。

 ただ、麻痺の治療を考える時に、考慮しておかなければならないことがあります。それは、”代償運動”です。

 難易度が高い運動を求められると、代償運動は出現します。そして、それは2つの段階に分けて考えられます。1つ目は、”非麻痺側と麻痺側”2つ目は、麻痺側でも”痙性と随意運動”、の2つです。

 つまり、①に関しては、非麻痺側と麻痺側のどちらでも使える状況であれば、非麻痺側を使う。②に関しても、痙性が使えれば痙性を使う。共通することは、より簡単に動作できる方法を選択してしまう、ということです。

 なので、”非麻痺側よりも麻痺側を使える状況を作り、さらには、麻痺側でも痙性を出さずに随意運動を使える状況を作る”必要があります。ここが課題の前提です。

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 難易度の具体例

 それでは、麻痺側に対して、痙性が出現しないような課題の設定を列挙します。私が臨床で麻痺側を治療する際には、以下のことを考慮しながら、”易しい課題から難しい課題へ”設定します。

 ①[動作の難易度]臥位 →座位 →立位 →歩行

 ②[筋出力の程度]他動運動 →自動介助運動 →自動運動

 ③[患者さんの意識:イメージの難易度]

  末梢の動いている部分 →関節が動いている部分 →今行える動作 →過去の記憶の動作

 ④[患者さんの情報の入力量]接触+空間 →空間

 ⑤[運動の速度]遅い運動 →速い運動

 ⑥[運動範囲の程度]小さな運動 →大きな運動

 ⑦[運動に含まれる関節の数]単関節 →複合関節

 ⑧[運動の方向:1~2次元]横 + 縦 →四角 →丸  

 ⑨[運動の方向:2~3次元]

  前額面(ベッド面) + 矢状面・水平面(足底面・SLR面) →3次元の空間

 *認知機能の難易度

 :[注意する数][記憶する数:ワーキングメモリー][判断する数と速度][イメージの難易度(上記)][言語化の難易度]

 まとめ

 課題設定の難易度は、上記のように列挙しましたが、難しく考える必要はないです。麻痺側に求めたい随意運動の課題の際に、非麻痺側で代償できないように、痙性が出ないように、行えばいいだけです。

 課題を行っていく中で、”非麻痺側で代償した場合は、なぜ麻痺側でできないか”、”痙性で代償した場合は、なぜ痙性が出現したか”、を上記の難易度の具体例に落とし込んで考えれば、適切な課題設定ができます。

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