上下肢と体幹は分けて考える
【本編16】では、機能と能力を分けて考え、機能向上によって能力を上げていく必要があるということを説明しました。ここでいう機能とは”麻痺側の身体の機能”、つまり、”麻痺側の上肢・下肢・体幹の3つの機能”のことです。
では、麻痺側の機能訓練を行おうと考えた時に、分けて考えなければいけないことがあります。それは、上下肢機能と体幹機能に分けるということです。
分ける理由は2つある
それでは、なぜ上下肢と体幹に分けて考える必要があるのでしょうか?理由は2つあります。
理由①:神経学的に違う
神経学的に、上下肢と体幹は違います。運動神経は、上下肢はほぼ片側支配であるのに対して、体幹は両側支配です。この意味としては、錐体路の損傷を受けた場合、運動機能は、上下肢は回復しにくく、体幹は回復する可能性が非常に高いということです。
少しづつしか回復しない場合と、適切な治療さえ行えば徐々に回復する場合では、やはり、治療において分ける必要がでてきます。上下肢の機能回復の目標と体幹の機能回復の目標は違ってくるからです。また、目標の達成期限といった面でも違いが出てきます。
理由②:脳のメカニズムが違う
また、脳における出力のメカニズムでも、上下肢と体幹は違います。
運動機能として、上下肢は随意的に運動するのに対して、体幹は随意運動に対する姿勢制御を行います。これは予測的姿勢制御(APAs)と呼ばれるものです。つまり、上下肢と体幹の役割が違います。
運動機能での役割が違うため、脳での出力されるメカニズムが違っていて、上下肢の随意運動は運動野から指令が出されますが、体幹の姿勢制御は運動前野・補足運動野から指令が出されます。(体幹の随意的運動は、もちろん運動野から出力されます)
運動の役割が違う場合、治療を構築していく上で、どのような訓練が必要かが違ってきます。
これら2つの理由(①神経学的な違いと②脳のメカニズムの違い)を考えた時に、筋肉を動かせるようにするということは同じでも、回復する可能性も違うし、役割も違うので、分けて予後予測を立てて、分けて治療を考える必要が出てきます。また、実際に治療するときの時間配分も考える必要が出てくるでしょう。
最終的には繋げる:滑らかさという視点
上下肢と体幹を分けて考える必要があるわけですが、最終的には、一つの動作として連動していく必要があります。つまり、機能的には分けて考えた後に、能力的には繋げて考える必要があります。
連動している動作の評価として、やや抽象的ですが、”滑らかさ”という視点を挙げたいと思います。下肢と体幹が連動していないと、歩行でも、何かバラバラで滑らかでない印象を受けます。これは視覚的な評価ですが、実際に患者さんの身体を自動介助で動かした触覚的な評価でも、滑らかに力が伝わらないのが分かります。
つまり、”滑らかさ”とは、うまく力が伝わっているということです。上下肢が力を体幹に伝えた時に、うまく連動して姿勢反応が出て、動作として滑らかになります。
歩行でいうと、下肢が滑らかに床反力を体幹に伝えると、全体的な動きも滑らかになります。膝関節や股関節で力が抜けてしまって、バラバラな感じがありません。床反力が骨盤にうまく伝わり、骨盤から上部体幹へ姿勢反応が出ます。
上肢でいうと、上肢を動かした際に、体幹の動きが必要であれば動き、動く必要がなければ安定を保つように、うまく連動しています。上肢の運動の際に、重心をどこに置けばいいのかを体幹がコントロールできています。
まとめ
まとめると、①機能訓練をする時に上下肢と体幹の2つを分ける必要があり、②能力として全体的に動作を捉える時には上下肢と体幹が連動しているか、全身的に滑らかに動いているか、を確認する必要があります。
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