【本編12】ボバースと認知運動療法を両立させるには?

 

 前回は、課題指向型アプローチ(長下肢装具)とボバースを比較しました。今回は、ボバースと認知運動療法を比較していきます。

 【本編11】課題指向型アプローチ(長下肢装具)とボバースを両立させるには?

 ボバースと認知運動療法の”相性”は?

 臨床的に、ボバースと認知運動療法の”相性”はどうでしょうか?丁寧に筋の反応を確かめながらハンドリングする”ボバース”と、丁寧に患者さんから出てくる言葉を確かめながら細かく治療する”認知運動療法”を、臨床的にどう考えればいいでしょうか?

 結論から言うと、この2つのアプローチは、かなり相性がいいです。それはなぜか?最も大きな理由は、麻痺側への積極的な介入です。ボバースも認知運動療法も麻痺に対しての治療を行います。

 より正確に言えば、ボバースは麻痺側上肢・下肢からの体幹への介入で、認知運動療法は麻痺側の上肢・下肢・体幹それぞれに対して介入します。なので、介入する部位という点では共通しますし、お互いが埋め合せる関係とも言えます。

 実際に、ボバースの病院で、一人の患者さんをボバースの先生と認知運動療法の先生がコラボのような形で治療したり、脳科学の森岡周先生が横断的に関係性を持ったりしていることからも、相性の良さが伺えます。

 また、実際の臨床でも、ボバースから認知運動療法への移行は、セラピストの頭を混乱させずに可能でした。臨床的には、触れ方の”ボバース”理論の”認知運動療法”といった立ち位置になりました。

 ボバースと認知運動療法の”共通点と違う点”は

 では、少し具体的に、2つのアプローチにおける共通点と違う点を考えていきます。

 ◯共通点:

  ・麻痺側への介入。

  ・痙性はnegativeな面と捉える。

  ・筋の活動レベルによって、介助量を変える。他動→自動介助→自動。

 ◯違う点:

  ・患者さんに対して、認知運動療法では注意を向けさせるが、ボバースでは特定の注意を向けさせない。

  ・機能訓練として、認知運動療法は上肢・下肢の末梢部に対するアプローチがあるが、ボバースでは上肢・下肢の中枢部に対するアプローチ。

  ・認知運動療法は理論が明確だが、ボバースは曖昧なことが多い。

   【本編6】ボバースを臨床から考える

   【本編7】認知運動療法(現:認知神経リハビリテーション)を臨床から考える

 両立させるために何を議論すればいいか?

 では、ボバースと認知運動療法の両立をさせるには、どうすればいいでしょうか?麻痺を治療するといった目的では一致しているが、大きく違いがあるのは、”患者さんの治療に対する意識的な参加”という点が、議論の焦点になるでしょう。

 これは、非常に大切な点で、”学習”に大きく関わりますボバースは、患者さんをハンドリングによって治療しようとするので、患者さんに何を意識させるかは明確にしません。一方で、認知運動療法は、患者さんに学習してもらおうとするため、治療において、どこに”注意をさせるか”といった、積極的な参加をさせます

 ・ボバースの立場で考えると、ハンドリングしている治療の中で、患者さんに”どこに注意を向けさせて”治療するかという視点が必要となります。

 ・認知運動療法の立場で考えると、患者さんに学習させる点は素晴らしいが、理論に基づき過ぎていて、”動作訓練”への応用が少なく、日本の一般的な臨床で活かしきれていない。シンプルに、動作訓練の中でも注意させて学習させていくという視点が必要です。

 2つの視点から考えてみると、”ボバースの視点に認知運動療法を、認知運動療法の視点にボバースを、加える”ことで、臨床的には、リハビリの片麻痺の治療としてかなり完成度の高いものとなります。

 次回の【本編】は、”認知運動療法と課題指向型アプローチ(長下肢装具)”について比較していきます。

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