【本編18の補足③】運動学習の”量”の必要性:ヘブ則(Hebb’s rule)

 ヘブ則(Hebb’s rule)とは?

 【本編18】では、学習には、課題の適切な難易度という意味での”質”と、課題を回数こなすという意味での”量”が大切だという話をしました。

 【本編18】運動学習:意識的な学習と無意識的な学習(片麻痺治療の基本方針③)

 学習には”量”が必要ですが、それを裏付けるような神経学的な有名な法則があります。それは、”ヘブ則(Hebb’s rule)”です。ヘブ則とは、

『1949年に生理学者Donald Hebbが提唱した、つぎのような法則である。「細胞Aの軸索が、細胞Bを活性化し、繰り返し、または持続的に発火を引き起こすと、ある種の発達の過程または代謝の変化が、一方または両方の細胞に起こり、Bを活動させる細胞としてのAの能力が増強される」

出典元:カンデル,エリック R(2014)『カンデル神経学』金澤一郎・宮下保司監修,メディカル・サイエンス・インターナショナル』

 つまり、”繰り返し使われる神経は、使われやすくなる”、ということです。これは、逆に言えば、”使われない神経は、使われにくくなる”、とも言えます。

 

 質も大切だが、量も大切

 この神経の法則から考えても、リハビリの課題において、”量をこなすこと”の重要さが分かると思います。”正しい神経を使わせる”という質的な側面だけでなく、”正しい神経を繰り返し使わせて、使われやすくする”という量的な側面”の、2つが学習にとって必要なのです。

 身体の課題で考えると、”正しい身体の使わせ方”が質的な側面、”それを繰り返し行う”という量的な側面によって、学習が可能となるのです。

 この法則のポジティブな点を強調すると、”使えば使うだけ、使いやすくなる”、という点でしょう。では、ネガティブな視点で考えるとどうでしょうか?

 

 間違った学習や不使用の学習もある

 この法則をネガティブな視点で考えてみると、”良くない神経の使い方でさえ、量をこなせば、使い方が強化されてしまう”、ということでしょう。つまり、間違った身体の使い方をすれば、間違った身体の使い方のまま進む、ということです。

 前回の【本編18の補足②】でも書きましたが、”非麻痺側と麻痺側”のどちらも使える状況であれば非麻痺側を使うし、麻痺側しか使えない状況であったとしても、”痙性と随意運動”のどちらも使える状況であれば痙性を使う、という”使いやすさの問題”があります。

 【本編18の補足②】片麻痺の運動学習のための難易度設定:具体例

 ”麻痺側よりも非麻痺側を”、”随意運動よりも痙性を”使いやすい、という”使いやすさ”の観点からヘブ則を考え合わせると、訓練の状況によっては、”麻痺側よりも非麻痺側を”、”随意運動よりも痙性を”、学習して、さらに使いやすくなっていく可能性があります。

 麻痺側を学習させていく治療の場合、このあたりをしっかり頭に入れて、環境を整え、難易度を適切に設定してあげる必要があります。

 間違った運動学習が、正しい学習を阻害する、と言っても良いかもしれません。

 また、これと同じ発想で、”使われない神経は使いにくくなっていく”という点では、使われないということも学習されるということもあります。”不使用の学習(learned non use)”と言われるものです。

 リハビリの”量”は大切ですが、”使えば使うだけ、使いやすくなる”というポジティブな視点と、”良くない方法も学習されてしまう””使わないことも学習されてしまう”というネガティブな視点、の両方の視点で考える必要があります。

 まとめ

 まとめとしては、ヘブ則(Hebb’s rule)という、”使われる神経回路は使いやすくなり、使われない神経回路は使いにくくなる”、法則があります。これは、リハビリにおいても”量”が必要だということを表しています。

 そして、麻痺側の学習をさせるという視点では、”実際のリハビリの訓練場面や生活の場面で、いかに麻痺側を使わせ、痙性ではなく正しい随意運動で使わせるか”、ということが重要になってきます。

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