痙性は、ネガティブか、ポジティブか
前回、【本編17】上下肢と体幹の関係(片麻痺治療の基本方針②)の中で、上下肢と体幹を分けて考える必要があるという話をしました。
そして、片麻痺の治療においては、上下肢と体幹という身体の部位分けるだけでなく、片麻痺の回復過程で起きる”痙性”の問題をどう捉えるか、ということも考えておく必要があります。
痙性が、ネガティブか、ポジティブかという話になると、臨床のセラピストは一瞬戸惑ってしまいます。
「学校の教科書的には、痙性は陽性兆候って呼ばれていて、麻痺が陰性兆候であるのと同様に、ネガティブなものだったはずだ。いや、でも、臨床的には、筋緊張が上がってくると、下肢の支持性も上がってくるし、ネガティブなことだけではないような気がする。」
といったような感じではないでしょうか。痙性がネガティブか、ポジティブかの問題に対しては、臨床のセラピストはかなり曖昧です。実際に、長下肢装具(課題志向型アプローチ)の勉強会では、痙性は歩行速度に影響を与えない、といった根拠から必ずしもネガティブな因子ではない、とも説明します。
果たして、痙性はネガティブなのものなのでしょうか、それともポジティブなものなのでしょうか。
痙性は、患者さんにとって嫌なもの
結論から先に言います、痙性はネガティブなものです。その理由は、患者さんにとって嫌なものだからです。つまり、随意的ではない運動は気持ち悪いもので、コントロールできずに勝手に身体が動くというのは、嫌なものなのです。
なので、嫌な感覚で下肢の支持性が得られたとしても、患者さんは本当は、なんとかならないかなと思っているはずです。ただ、そのことよりも歩けることの方が嬉しい体験としてあるため、痙性について訴えることは少ない、といったところです。
動作として歩けることはポジティブなことに一見見えますが、患者さん視点で痙性を考えるとネガティブなものです。
しかも、痙性が高くなってきていることを回復してきている証拠だ、と説明する人もいるため、患者さんは混乱してしまいます。正確には、痙性が高まってくる時期は、機能解離が解除されている時期のためであり、痙性の高まる時期と随意性の運動の回復している時期とは同時期ではありますが、痙性自体がポジティブなことであるという意味では全くありません。
痙性は、治療対象である
つまり、痙性はリハビリの治療対象だということです。臨床のセラピストは、なんとなくそれは分かっていて、硬くなってきている筋をストレッチするという方法をとります。
しかし、麻痺の筋肉を他動的にストレッチすることは、治療としては逆のことをしています。痙性を増悪させる可能性が高いです。なぜなら、痙性をコントロールすることが治療の目的であって、痙性のある筋肉をストレッチすることはさらに硬くすることにつながってしまうからです。
なので、痙性のメカニズムをまず知ることが必要で、簡単に説明すると、錐体路損傷によって痙性(不随意運動)をコントロールすることができなくなったということ。治療としては、他動運動でのストレッチではなく、他動運動(~自動介助運動)に合わせて力を抜く練習から行う必要があります。
まとめ
まとめとしては、痙性は患者さんにとって嫌なもので、ネガティブなものであり、リハビリの治療対象であるということです。
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