機能訓練とは、麻痺側の機能訓練をすること
前回の【本編16】の機能と能力の関係(片麻痺治療の基本方針①)において、機能訓練をするべきだと書きました。ここでいう機能訓練とは、麻痺側の機能訓練のことです。麻痺側の体幹、上肢、下肢の機能訓練です。
麻痺側の機能訓練をするということは、何を目的にしているかというと、①麻痺側の機能を上げ、さらには、②実際の能力に麻痺側を組み入れることです。
これは、箱(=能力)と中身(=機能)の関係で説明すると、①は中身を大きくしていくことを意味し、②は箱の中に”麻痺側機能という中身”を入れること、です。
”機能訓練が、麻痺側の機能訓練を指す”、ということは当たり前のようで、誤解されているように思います。ちょっと昔はそうではありませんでしたが、今の時代の流れでは、実際の能力訓練をすることで、麻痺側の機能訓練ができると誤解している人が多くいます。
麻痺側の機能訓練は、麻痺側に集中してできるもので、能力訓練をすることによってできるものではありません。例えば、歩行訓練が麻痺側下肢の機能訓練にはなりません。
では、なぜそのような誤解が生まれやすいのでしょうか。それは、麻痺側の回復のメカニズムにあります。
片麻痺の回復を、”自然回復と学習による回復”に区別する
麻痺側が回復することは知られています。だいたい発症から3ヶ月目くらいまでは順調に回復し、それ以降は回復も鈍化していきます。回復が緩やかになってくると、”プラトーに近づいてきた”と言ったりします。
3ヶ月くらいまでは、なぜ順調に回復するかというと、それは自然回復が起こるからです。自然回復の意味というのは、脳の機能としては損傷していない部分が回復するということです。
自然回復のメカニズムとしては、①浮腫の改善、出血の吸収、②ペナンブラの改善、③機能解離の解除、の大きく3つに分けられます。①は脳の圧排の問題、②は血流の問題、③は神経の問題、が改善することによって起こります。
一方で、3ヶ月以降は、自然回復が終わり、リハビリにおける学習による回復が中心となります。脳の再組織化によって、回復が起こります。元々損傷していない部分の回復である自然回復とは違い、実際に運動して学習したことによる回復のため、非常に回復がゆっくりです。急激に良くなることはありません。
この自然回復と学習による回復を区別していないと、発症後3ヶ月の麻痺側の機能回復が、リハビリによる効果と勘違いしてしまいます。積極的に能力訓練をしていても、麻痺側が回復してくるので、勘違いしてしまうのです。
自然回復は、リハビリの効果ではない
結論から言うと、この自然回復による麻痺側の回復は、リハビリの効果ではありません。損傷していない脳の機能が使われるようになり、回復しただけです。
本来、リハビリで地道に行わなければならない麻痺側の機能訓練は、運動を行って学習したことによる回復です。前回の【本編16】の機能と能力の関係(片麻痺治療の基本方針①)でいう機能訓練は、”運動学習による回復”をさせることです。
まとめ
まとめとしては、まず麻痺側の回復を、”自然回復と学習による回復”の2つを明確に分けることです。分けた上で、リハビリでは、麻痺側の”学習による回復”を促す必要があります。それが、本当の意味での、麻痺側の機能訓練の効果を指します。
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