【本編16】機能と能力の関係(片麻痺治療の基本方針①)

 能力訓練を繰り返しても、能力は思うように上がらない

 機能と能力の関係は、密接に関係しています。”機能は中身、能力は箱”に例えられます。ある能力を達成するためには、機能で箱を一杯にしなければいけません。

 【本編10】片麻痺治療の”機能訓練と能力訓練”の関係を理解する

 これは、何が言いたいかというと、機能を良くしないと、目標とする能力を達成をすることができない、ということです。機能を良くすることで、能力が回復してくる。下肢の機能を上げることで、歩行能力が上がる。”機能と能力が相関する”というのはそういうことです。

 ここで、臨床的には反論が出るはずです。”なるべく早めに離床して、ADL訓練や歩行訓練をすると、良くなっていく”、という反論です。これは確かに、行っていなかった能力訓練を進めていくことによってできるようになっていきます。まずそこは事実としてあります。

 それは、箱の例で話すと、とりあえず使える残っている機能を、箱に詰め込んだ状態なのです。本来使わない機能を使ったり、過剰に使ったりすることによって、能力を完成させているのです。つまり、非麻痺側の過剰使用や代償運動を使っただけということです。(場合によっては、”介助”という要素も)

 これでは、本来使用すべき機能を使えないばかりか、一度使用した過剰使用や代償運動の修正には時間がかかります。結果的に、能力訓練をすれば初めは良くなったようには見えるが、途中から思うように伸びてこず、痙性や代償運動が強まってくるという悪い面も出現してきます。

 これが、能力訓練を繰り返しても、能力は思うように上がらない、の意味です。能力訓練をしたからといって、右肩上がりに回復していくということではないので、機能訓練もしっかりやらなければいけない、ということです。

 機能訓練をするときは、目標とする能力を意識する

 機能訓練を行う必要がありますが、気をつけなければいけない点があります。それは、”機能訓練は、何の能力の箱を満たすために行っているか”、を常に意識するということです。

 つまり、起き上がりなのか、座位なのか、歩行なのかなど、達成したい能力の設定を具体的に考えるということです。これは、学生時代に、impairmentとdisabilityという関係性でよく考えたことだと思います。

 ただ、実際の臨床では、機能訓練と能力訓練が乖離していることが多いです。例えば、歩行時の立脚後期の問題がある方に、SLRを繰り返すことは厳密につながることでしょうか?また、麻痺側上肢において痙性が強くて上肢伸展できない方に、肩関節を90度以上屈曲させることは能力につながることでしょうか?

 ”機能訓練を行う際に、改善させたい能力と密接に関係づける”、ということが治療においてとても大切です。なので、機能訓練後に、目標とする能力訓練を行ってみて、機能訓練が生かされているかを確認する必要があります。

 能力→機能、機能→能力の2つの視点が常に必要

 臨床的な”機能と能力”の関係についてまとめると、必要な能力を想定した上で機能訓練を行い、最後に必ず能力訓練を行って確認する、ということです。

 つまり、能力→機能→能力といったような思考過程を踏む必要があります。

 最後に箱の中身を考えてみる

 十分な機能訓練をした結果、目標とする能力に到達する場合はいいでしょう。つまり、箱の中身を、患者さんの機能で埋めることができた場合です。

 しかし、箱を十分に満たせない場合も大いに考えられます。また、機能を上げる十分な治療をする入院期間が取れない場合もあります。その場合は、他の物で埋め合せる必要があります。そこで考慮しなければならないのが以下の点です。

 ・装具や環境設定

 ・非麻痺側機能と麻痺側機能

 ・正常運動と代償運動(痙性)

 これらをどのようなバランスで箱に入れていくのかを調整して、目標とする能力が安全に行われるようにしていく必要があります。

 まとめ

 ①達成したい能力を決める(=箱を決める)、②能力に必要な機能を向上させる(=箱の中身を埋める)、③能力訓練を実施して確認する、④最終的に、箱をどう埋めるか麻痺側機能以外の要素も検討する。

 この一連の思考プロセスが、機能と能力の関係を考えるときに大切です。

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